研究紹介
水工学・AI・流域治水の融合による次世代洪水リスクマネジメント
近年、気候変動の影響により、豪雨災害は激甚化・頻発化しており、洪水リスクへの対応は世界共通の課題となっています。
こうした課題に対し、本研究室では、水工学を基盤として、数値シミュレーション、人工知能(AI)、高性能計算(HPC)、地理空間情報(GIS)を融合し、流域全体を対象とした洪水リスクマネジメント技術の研究を行っています。
私たちの研究は、「現象を正しく理解する」ことから始まり、「迅速かつ高精度に予測する」技術を開発し、その成果を河川管理、防災計画、避難支援などの実社会へ還元することを目指しています。
洪水氾濫解析
洪水氾濫解析は、本研究室の研究基盤となるテーマです。
近年の豪雨災害では、河川からの越水や破堤による外水氾濫だけでなく、排水能力を超える降雨によって発生する内水氾濫が都市部を中心に大きな課題となっています。しかし、これらを一体的に解析するためには、複雑な地形や市街地構造を精度よく表現できる数値解析技術が必要です。
本研究室では、三角形非構造格子を用いた二次元浅水流解析モデルを開発し河川、堤防、道路、建物などの複雑な地形を詳細に再現しています。非構造格子の高い柔軟性を活かすことで、河川から市街地までを一つの解析領域として扱い、外水氾濫と内水氾濫を包括的に評価できることが大きな特徴です。
さらに、GPUを活用した並列計算技術を導入することで、大規模流域においても高精度かつ高速な洪水解析を実現しています。
本研究室では、この解析技術を基盤として、洪水ハザードマップの高度化、河川整備計画の検討、都市浸水解析、流域治水、避難支援など、さまざまな研究へ展開しています。
AIによる高速浸水予測
高精度な洪水氾濫解析は、洪水リスク評価や河川計画において高い信頼性を有する一方で、大規模な解析には多くの計算時間を要します。このため、災害発生時に迅速な情報提供を行うには、解析の高速化が重要な課題となっています。
本研究室では、高精度洪水氾濫解析モデルを高速に再現するAIサロゲートモデルの開発に取り組んでいます。AIの学習には、本研究室で蓄積してきた高精度洪水氾濫解析の結果を活用し、さまざまな降雨条件や地形条件に対する浸水挙動を学習させています。これにより、高精度解析と同等の浸水深分布や浸水範囲を、短時間で予測することを目指しています。
本研究の目的は、実際の浸水現象をAIのみで推定することではなく、検証された物理モデルの解析結果を高速に再現し、その利用範囲を大きく広げることにあります。
現在はRandom Forestを中心に研究を進めていますが、今後は深層学習やPhysics-informed AIなども取り入れ、リアルタイム洪水予測や避難支援、流域治水への応用を目指しています。
洪水情報を活用した避難支援
洪水予測の目的は、浸水状況を再現することだけではありません。その情報を活用し、住民が安全に避難できる環境を構築することが、防災・減災において重要です。
本研究室では、地物を詳細に表現した高精度洪水氾濫解析を基盤として、時間とともに変化する浸水深や流況を考慮した避難支援技術の研究を行っています。
洪水氾濫解析から得られる時系列の浸水情報を用いて、浸水深に応じた避難歩行速度の変化を評価するとともに、安全な避難経路を動的に探索するシミュレーション手法を開発しています。さらに、避難所の新設や配置変更が避難時間や到達率に与える影響を定量的に評価し、防災計画の改善に役立つ知見を提供しています。
現在は、AIによるリアルタイム浸水予測との連携にも取り組んでいます。高速に予測された浸水情報を避難シミュレーションへ反映することで、災害発生中に刻々と変化する状況に応じた避難経路の提示や、避難所運用の意思決定を支援する次世代防災システムの構築を目指しています。
流域治水・田んぼダムの評価
近年、気候変動に伴う豪雨災害の頻発を受け、河川整備だけでなく、流域全体で洪水リスクを低減する「流域治水」の重要性が高まっています。農地や森林、ため池など、流域が本来持つ保水・遊水機能を活用することは、持続可能な治水対策として大きな期待が寄せられています。
本研究室では、その一つである田んぼダムに着目し、洪水時の貯留効果や流出抑制効果を定量的に評価する研究を進めています。詳細な地形データや数値解析モデルを用いて、水田内の貯留過程や流域全体への影響を解析し、田んぼダムの効果を科学的に明らかにすることを目指しています。
また、降雨条件や設置規模、配置の違いによる効果を比較することで、より効果的な田んぼダムの導入方法や流域全体での活用方策についても検討しています。 今後は、田んぼダムだけでなく、河川整備や都市域の浸水対策、洪水予測技術などを組み合わせ、流域全体を対象とした総合的な洪水リスクマネジメントへと研究を発展させていく予定です。